アロマな君に恋をして
麦くんは、泣いてる最中の私のことは放っておいてくれた。
ただティッシュの箱を差し出して、自分は食器の片づけをしていた。
私を好きだと言いながら、手も握らないし肩も抱かない。それも彼の優しさなのだろうと思ったし、実際ありがたかった。
「……ごめんね、泣いたりして」
「ううん、嬉しいです。本当のなずなさんを見せてくれて」
私がいくらか落ち着いた頃、スマホを片手にテーブルに戻ってきた彼。
何か言いたそうなのにはにかんだ様子でなかなか口を開かないから、私はふっと笑って鞄から自分の携帯を出してテーブルに置いた。
「連絡先、でしょ?」
「……いいんですか?」
「どうしたのよ急に謙虚になって。人の電話盗み聞きするほどの行動力あるくせに」
私が意地悪く言うと、麦くんは照れたように自分の柔らかそうな髪をくしゃっと撫でた。
「あれは、その……ごめんなさい。どうしても、なずなさんに近づくきっかけが欲しくて」
……やられた。
意地悪したはずが、天然でそんな可愛いことを言われてしまうと、もう怒れない。
「……アドレス?番号?」
不覚にも少しきゅんとしてしまった自分をごまかすように携帯を操作しながら訊くと、麦くんはぱっと表情を輝かせて言った。
「もちろん、両方です!」