アロマな君に恋をして
「……会ったことないのよね。近いうちにお店に来るらしいけど」
「じゃあその時に」
「そうね……言ってみるだけでも」
「そうですよ。いい返事がもらえること、祈ってますね」
そう言って椅子から立ち上がり、二人分のカップをキッチンに片づけに行った麦くん。
その背中を見つめる自分のまぶたが重くなっていることに気付いて、私は慌てて瞬きをした。
本格的に眠くなる前に帰らなくちゃ……
「麦くん、私そろそろ……」
「……なずなさん、眠い?」
「うん。カモミールティーが効いたのかも」
「それもですけど、きっとさっきのマッサージも効いてます。わざと鎮静効果のある香りばかり選んだのはわざとですから、できれば帰らないでほしいんですけど」
「え……?」
きゅ、と水道の閉まる音がした。
洗いものを終えてキッチンから出てきた麦くんの表情には、切ない色が浮かんでいた。
「さっきも言いましたけど、なずなさんに変なことしようって思ってるわけじゃないです。
でも、もう少し一緒に居たいから……泊まってってくれませんか?」
……眠気が一気に吹き飛んだ。
彼の黒目がちの潤んだ瞳に映った私はばかみたいに口を開けて固まっている。
何もしない、という麦くんの言い分は信用していいと思う。
でも、泊まるとなると別の意味で困る。
だって……一晩彼と一緒にいるだなんて、考えただけでドキドキしてしまって……
私は胸のあたりの服をきゅっと掴んで、ふと思う。
……ちょっと待って。ドキドキ。してるの?私。
なんで……