アロマな君に恋をして
ダメ、と言おうとするのにただ口を開けることしかできず、声は胸の辺りで詰まってしまう。
“キス”という単語を聞いてしまったから、嫌でも麦くんの唇に目が行く。
ふっくらと、柔らかそうな……女の子みたいに綺麗な唇。
「……拒否しないと、本当にしちゃいますよ?」
麦くんが最後の決断を、私に委ねる。
私は困ったように麦くんを見て、喉の奥からようやく掠れた声を出した。
「……怖いの」
年下の男の子に本音を打ち明けるのは、とても勇気が要るし恥ずかしいことだった。
だけどもうごまかしていられない。私はきっと、麦くんに惹かれてる。
「……怖い?」
「うん……」
だけど、一歩を踏み出すのが怖い。
一度失敗して、そのあと長い間恋愛を避けてきたから……もしもまた傷つくことになったら、立ち直れる自信がない……
「これ以上あなたに深入りして、傷つくのが怖いの……」
こんな臆病なアラサー女、面倒だって思ってくれていい。
今ならまだ引き返せる。一人でいることには慣れてる。
だからもう、優しいことを言わないで……?