アロマな君に恋をして
食器を洗い終わった私はバスルームの扉を開けた。
かび一つないお風呂の蓋を開けてみると、本当にちゃんと沸いている。
だけど私は心の中で「ごめん」と呟き、バスルームに背を向けた。
いくら恋人同士になったとはいえ、今日はまだその一日目。
本人不在の家でゆっくり入浴するなんて、図々しい気がしてしまって気が引ける。
「そろそろおいとましよう……」
荷物をまとめて、メモと一緒にあった鍵を手に部屋を出た。
しっかりロックしてからエントランスの側に並んだポストへ向かい、麦くんの部屋番号が書かれたポストに鍵をストンと落とした。
……なんかこの動作、すごく恋人になりたてって感じがする。
きっと付き合いが長くなったら合鍵を渡されて、好きなときに出入りできるようになって……
そこまで考えて、私はまた一人照れるハメになった。
私、こんなに妄想癖のある女だった?
久しぶりすぎる恋に、頭の中が占拠されて飽和状態だ。
私は自動ドアの外に出るとひとつため息を洩らした。
疲れたとかそういうネガティブなものじゃなくて、胸の中が甘すぎて苦しくて吐き出した、色があるとするなら桃色の息。
……ああ、重症だ私。