アロマな君に恋をして
私は一瞬ドキッとしたのを悟られないよう、平静を装いつつ彼に尋ねる。
「その気にさせる、というのは……」
目の前の男性があまりに色気たっぷりの声で言うものだから、ついそういう方面の意味に解釈してしまいそうだったけど……そうとは限らないわよね。
精神的に、仕事のやる気を起こさせたいとか……ただ単に、元気になって欲しい、とか。
「……人から聞いた話なんだけどね、その子は一度失恋してから恋愛に奥手になってて、新しい恋をしようとしないみたいなんだ。
そんな女の子が、少々強引にでもセクシーな気分になるような……そんな香りを探しててね」
男性は、私を見つめてにっこりと笑った。
なんだかその子、少し前の――麦くんに出会う前の私みたい。
同じ経験をした者として彼女の気持ちはよく解るから、きちんと探してあげよう。
少々強引にでも……って言葉は気になるけど、そこは店員の私が立ち入る話じゃない。
私は店の棚から見本の精油を数本持ってきて、香りを試すために蓋を開けて手に持った。
「こちらの組み合わせはいかがでしょう。サンダルウッドとイランイランの精油です」
ビンを持った手を、二つの香りが合わさるように優しく揺らし、男性の反応を見る。