アロマな君に恋をして

「――ふうん、いい感じだね。速くて丁寧だし、接客も好感が持てる」


いつの間にかレジスペースの方まで来ていた男性が、腕組みをしながらそんなことを言うものだから、私は恐縮してしまって頭を下げた。

麦くんのことばかり考えてぼーっとしてなくてよかった……


「支払いはこれで。一括」

「はい。お預かりいたします」


差し出されたのは現金でなくクレジットカード。

うーん、何から何までスマートな身のこなし。この人、一体何者なんだろう?


そんなことを思いながらカードの処理を済ませ、レシートにサインを貰うため彼にボールペンを渡す。

彼の手が生み出すのは、少々荒っぽいけれど予想通りの綺麗な字。

……それはさておき。私は彼の名前を見て首を傾げた。

徳永健吾……どこかで見たことのある名前だったような。


ペンを置いた彼は、署名入りのレシートを私に差し出しながら言う。


「緒方さんは元気?」

「え?はい、今裏で仕事してますけど……お知り合いなんですか?」

「知り合いっていうか……店長とオーナーの関係、って言えばわかるかな?」


え?じゃ、じゃあ、目の前のこの人はまさか……


「このお店の……オーナーさん?」

「ん。正解」

「しっ失礼しました!!お顔を拝見するのが初めてだったもので、お客様と勘違いしてました……!」


だから名前に見覚えがあったんだ……オーナーの名前はいろんな書類に書いてあるから。


< 85 / 253 >

この作品をシェア

pagetop