アロマな君に恋をして
「――ふうん、いい感じだね。速くて丁寧だし、接客も好感が持てる」
いつの間にかレジスペースの方まで来ていた男性が、腕組みをしながらそんなことを言うものだから、私は恐縮してしまって頭を下げた。
麦くんのことばかり考えてぼーっとしてなくてよかった……
「支払いはこれで。一括」
「はい。お預かりいたします」
差し出されたのは現金でなくクレジットカード。
うーん、何から何までスマートな身のこなし。この人、一体何者なんだろう?
そんなことを思いながらカードの処理を済ませ、レシートにサインを貰うため彼にボールペンを渡す。
彼の手が生み出すのは、少々荒っぽいけれど予想通りの綺麗な字。
……それはさておき。私は彼の名前を見て首を傾げた。
徳永健吾……どこかで見たことのある名前だったような。
ペンを置いた彼は、署名入りのレシートを私に差し出しながら言う。
「緒方さんは元気?」
「え?はい、今裏で仕事してますけど……お知り合いなんですか?」
「知り合いっていうか……店長とオーナーの関係、って言えばわかるかな?」
え?じゃ、じゃあ、目の前のこの人はまさか……
「このお店の……オーナーさん?」
「ん。正解」
「しっ失礼しました!!お顔を拝見するのが初めてだったもので、お客様と勘違いしてました……!」
だから名前に見覚えがあったんだ……オーナーの名前はいろんな書類に書いてあるから。