アロマな君に恋をして
「いや、名乗らなかったのは僕だし気にしないでいいよ。わざとお客さんのふりして、ちょっと従業員を困らせる要求をしたらどう対応するかなーと思ってさ。
ま、抜き打ちテストってとこかな」
オーナーはレジ台に肘をつき、私の顔を覗き込んで悪戯っぽく笑った。
うう……やられた。じゃあ、せっかく包んだこのプレゼントも役目は終わりってことか。
もったいないけど、このオーナーならこんな精油使わなくたって女の人の方から言い寄ってきそうだもの。
「これはどうするんですか?」
「ああ、イランイランとサンダルウッドね。それはきみへのプレゼント」
「…………はい?」
「いや、帰国する前に緒方さんに一度連絡を取ったんだけどね。もう一人の従業員はどんな子なのかって聞いたら、いい子なんだけど恋愛に臆病みたいなこと言ってたから」
「……ああ、緒方さんの差し金ですか」
……なんだか妙に納得。緒方さんなら言いそうだ。
でもきっと、その話をした時にはまだ私と麦くんがこんな風になってなかったんだろう。
「ありがたいんですけど、間に合ってます」
「あれ?もしかして最近彼氏できたの?」
「……まあ、そういうことです」
「なんだ、一足遅かったのか。かなりアロマへの情熱がある子だって聞いてたから、あわよくば僕がもらおうと思ってたんだけどな」
「もらうって、何を?」
「きみを」
「……そんなご冗談を」
あいにく私は、恋する気持ちを取り戻した今でもそういうジョークは好きじゃない。
鼻で笑って、この話は流してしまおう。
レジ台の上のプレゼントも、やんわりと彼の方へ押し返した。