アロマな君に恋をして

緒方さんの居るスタッフルームにオーナーを連れて行った後は、またお店の方に戻った私。

特にお客さんが居なかったから、ふらりと一つの棚に近づいてさっきも手に取った小瓶を持ち、ラベルを眺める。


ylang ylang――イランイラン……愛に効くだなんて言われてる、エキゾチックな香りを持つ精油。

どこかの国では、新婚夫婦のベッドにイランイランの花びらをまく習慣があるんだとか。


“男ならお互いの想いが通じたその日に相手の女性を抱きたいものだけどね”


さっきオーナーが言ってた台詞が、頭の中に蘇る。

あのときは、彼の独りよがりな考えだと思うことにしたけれど……今になって少しだけ気にしている自分が居る。


だってよく考えれば緒方さんも、私と麦くんが同じベッドで寝ていたことを聞いて“理解不能”と言っていた。

もしも麦くんが、私が隣で寝ていて少しもそんな気分にならなかったんだとしたら、それはそれで問題な気がする。

優しいから我慢してくれてるんだと、都合のいいように解釈していたけど……もしもそうじゃなかったらどうしよう。


麦くんの気持ちに嘘はないと思うけど、でも、抱くとなるとちょっと私のカラダじゃ嫌で……もっと若かったり、スタイルのいい女の子がいいなって思われていたらショックだ。


「私……自分勝手すぎる……」


ため息とともにそう呟いて、小瓶を棚に戻した。

そういうことを拒んでいたのは自分のくせに、ちょっと他人に何か言われたくらいで不安になって、求める素振りくらいは見せて欲しい、なんてわがまま極まりない考えまで今では浮かんでいるなんて……


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