アロマな君に恋をして

下降気味のテンションののまま、ぽつりぽつりと訪れるお客さんの前ではもちろんそれを隠して笑顔で接客していた。


そんな中、結婚式の引き出物としてアロマのギフトを贈りたい、という若いカップルが来店し、高価な初心者用セットを何十箱も注文する、という滅多にない幸運が訪れた。


たくさんの注文でお店に利益が出るのはもちろんいいことだし、何よりそのカップルの結婚を一緒にお祝いできるのが嬉しい。

私は店内のソファで二人と向かい合いながら、いつもよりも楽しくアロマテラピーの説明をしていた。


「――ダイエットでしたら、新陳代謝をよくするローズマリーを数滴お風呂に入れて、じっくり半身浴をするのがおススメですよ。
合間に水のシャワーで熱を閉じ込めながら、何回も繰り返すと汗がたっぷり出て気持ちいいんです」

「わー。やってみます。ブライダルエステも式の直前に一応予約してるんですけど、それなら今からでも毎日できますもんね」

「……得意の三日坊主になるなよ」

「うるさい!」


私の目の前でじゃれ合う二人は本当に仲が良さそうで、これから幸せに向かってまっしぐら、という雰囲気だった。

彼らの可愛いやりとりに微笑みながら見積書を作成していると、奥からオーナーと緒方さんが出てきてレジのところで何か深刻そうに話をしていた。


……気になるけど、今は目の前のお客さんに集中。


「お見積りはこれくらいになります。式に出席される方の人数が確定しましたらまたご連絡ください」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」


封筒に入れた見積書を渡して、手をつないで店を出て行く二人を扉の外まで出て見送った。


いいなぁ、この達成感。やっぱり私、この仕事が好き。


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