アロマな君に恋をして
すぐに返事ができずに唇を噛む私を見て、オーナーが静かに言う。
「彼氏を置いてはいけない……って感じかな?」
彼氏……
なんでだろう。そんな風に言われると否定したくなる。
仕事より男を取るような女だって思われたくない……
「それも、ありますけど……カフェの件はいつかできたらなって。遠い先の未来に叶えばいいって思っていたことだから……今はまだ、イメージが湧かなくて」
「緒方さんはそうじゃなかったみたいだよ?」
「え……?」
後ろを振り返ると、立ったまま私たちのやりとりを見ていた緒方さんが照れたように笑って舌を出していた。
そして観念したように口を開く。
「私さ、結構本気でカフェ作りたかったのよね。だから、オーナーが帰ってきたら絶対に言おうって思ってたの。
だけど、よく考えたらハーバリズムの勉強なんてしてなかったし、だからって今から日本を離れて勉強するなんて私もなずなちゃんもきついし、専門家を雇ってくださいなんて言える儲けがあるわけでもないし……実現は不可能みたいね。
それが分かっただけでもよかったわ。だからなずなちゃんも気にしないで?」
「緒方さん……」
……知らなかった。
いつもその話は冗談みたいに語っていたから。
気にしないでって言われても、胸にしこりのようなものが残る。
私がもしも麦くんに出会わずフリーのままだったら、この誘いを受けることができた……?