アロマな君に恋をして

“発つのは来年になってからにするつもりだから、もう少し考えてみて”


オーナーはそんな言葉を残して店を去って行った。

その後閉店してからも私の心はもやもやした気持ちに乗っ取られて、引き出物の注文の喜びなんてはるか彼方へ消えてしまった。


帰り道、マフラーに顎を埋めて難しい顔をする私に、緒方さんが明るく話しかける。


「まだ気にしてるの?確かにカフェの件は残念だけど、なずなちゃんが私に気を遣って麦くんよりイギリスを選んだら、そっちの方が悲しいわよ」

「……本当に?緒方さんこそ私に気を遣ってそう言ってくれてるんじゃないんですか?」

「本当!カフェよりなにより、なずなちゃんの花嫁姿を見るのが今の私の一番の夢なんだから」


ねっ!と私の肩を強めに叩いた緒方さん。

ちょっと痛いけれどその明るい調子に少し救われた私は、ようやく白い息とともに笑顔を見せることができた。


「よし、元気が出たところでこれをあげよう」


がさっと音を立てて緒方さんが鞄から取り出したのは、見覚えのある包装。

これはまさか……


「オーナーがせっかく買ってくれたんだから勿体ないわよ。次にお泊りするときに使ったら?」


中を見なくてもその言葉でわかった。

間違いなく、私の選んだお色気精油セットだ……


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