君がため、花は散りける
其の壱

 静けさに、耳の奥できん、という音。

 日の光りか、閉じている瞼の向こうは明るい。

 はぁ、もう朝?…あー、また気怠い学校。寒いし、布団から出たくない。

 …って、待てよ?

 もう、そろそろ目覚まし時計の一つや二つ鳴っても良い頃だよね…?

 そう目を閉じたまま逡巡して暫く。私はとっさに飛び起きていた。

「ギャー!?ヤバい、遅刻だぁ!なんで誰も起こして…くれ……な、い……の?」

 だけど、そのいつもと違う景色に、起き始めていた思考は完全フリーズ。

 ただ、まばたきを何度も繰り返す。

 おそる、おそる、周りを見回して、知らず知らず顔が険しくなる。

「…ここは、どこ?」

 ――私はだれ?…と、生憎、記憶喪失まで重傷ではないようだ。

 私は凪原智子。この、両親からもらった古くさい、華の高校生らしからぬ名前の純日本人だ。

 (全国の智子さん。馬鹿にしているつもりも、非難しているつもりも、一切合切ありません。)

 知らない部屋――畳に障子、歴史の教科書にでも載ってそうな年代物のタンスがあり、寝ていた布団も和風な花柄だ――だが、日本であることは確かだ。

 …さて、一体何があってここに来たんだ?

 首を捻ること三秒…あっ!と昨日(か、どうかは分からないが)の夜を思い出す。

 「み、瑞樹?おーい、瑞樹ぃ…いるなら返事しろぉ…!」

 ここには私一人。…昨日、家屋の前で桜の嵐に巻き込まれたことは覚えている。しかし、いつから瑞樹が側に居なかったかは…。
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