君がため、花は散りける
そこまで考えると、嫌でも悪い予感がしてしまう。
「も、もしかして…ここって…黄泉の国?」
サー…っと血の気がひいていく。
脳裏に浮かぶのは一番の友達、瑞樹や父と母の顔。…ついでに石崎の変顔。あ、あれは生まれつきの顔か。
「どうしよぉ…。誰だよ、幽霊に会えたらなぁなんて浮かれてたのは!?」
はい、間違いなく自分だった。
「死にたくなーい!だって、まだ十六よ?それに、ニュースに『女子高生、神隠しに合う』なんてダサすぎでしょ!?」
うわーん、と声を出して泣く。広がる不安や後悔。自分一人だけという寂しさに涙は止まらない。
それこそ、顔がぐちゃぐちゃになるくらい泣きじゃくる。
もう、ここがどこかなんて関係ない。
とにかく、家に帰りたかった。
温かい家と平凡だけど仲の良い家族。気の置ける友人達。
そんな些細な、穏やかな生活を営んできた、あの場所に!
…わんわん泣いてると、襖障子の向こうから、ギィ、ギィ…と、床板が軋む音が聞こえてくる。
え…?なんて情けない声を出して、障子を見つめる。
ギィ、ギィ…。
その音はだんだんとこちらに近づいているようだった。
ま、待って…誰っ!?私を天に送ろうとする輩か!?
自然と身構える。
ギィ、ギィ…。
「私、まだ死にたくないんだから!」
足音が襖障子の前で止まる。そこには大きな影が一つ。
ドクドクと速まっていく鼓動。恐怖にまた目頭が熱くなって潤む目。
そして…障子が開かれた。