君がため、花は散りける
ふと、頭に感じる温もり。
顔を上げると…
「…そのお面、どうにかならないの?今すっごい良い場面だと思うんだけど。」
私はゴシゴシと乱暴に目を拭う。依然、般若の面で畳の上、胡座をかいて座る桜廉。こいつは何者なのだろうか。
しかし、それよりも変なのだ。瑞樹は一体どこに居るんだ?一緒に居たのに…。
冠山、と言えばやはりあの夜に来ていた山。…ん?てことは…!?
「あんた…もしかして、幽霊!?」
心霊現象という噂の源、あの家屋に…私は躊躇もなく眠っていたということなのか?
「幽霊はこんなに実体を持つものなのか?」
その馬鹿にしたような言いぐさに若干の苛立ちを覚える。言い返そうとすると桜廉が立ち上がった。
「え…どこに、行くの?」
「…一つ、言っておくが、無闇やたらとこの部屋を出ない方が良い。家に帰りたいのならな。」
質問に合っていない答えを言い、桜廉はどこかへ行ってしまった。
なんだ、あれ。
私はもう一度目元を拭い、投げやった布団を手繰り寄せ、それを頭から被って目蓋を下ろす。混乱している気持ちを落ち着かせようと試みてみたのだ。
息をすると布団からか、微かな花の匂いがした。
…嗅覚、感情、視覚も、聴覚も、いつもと変わらない。やっぱり自分はまだ生きているんだ。それは確信できる。
そして、あの桜廉は幽霊ではないらしい。私を黄泉の国に連れて行こうともしていない、らしい。