君がため、花は散りける

「ね、智子。」

 寒い寒いと凍えながら、紙パックの冷たい林檎ジュースを買おうとしている私に、同じく冷たいアロエジュースを手にしている瑞樹が話しかける。

「どしたの、瑞樹。」

 ガタン、ゴトンっ…という音とともに冷たい林檎ジュースが降りてくる。

 手に取ると、やっぱり冷たかった。

 教室に置いてけぼりの膝掛けが恋しい。肩掛けにして持って来れば良かった。学校内だと侮ってしまった。

「なんかさ、心霊現象が起こるっていう山の麓の家屋…気にならない?」

 そそくさと校舎内に入り、機嫌の良さそうな瑞樹を見つめ、目をそらす。

「それって、もしかして誘ってる?それなら行かないよ。私、忙しいもん。」

「嘘おっしゃい!あんた年がら年中暇人じゃないの。こないだ、おばさんが心配してたわよ。将来、ニートになって結婚もせず家にずっと居座るんじゃなかろうかってね!」

 母よ。そんな余計な心配する暇があるならケチらずお弁当に玉子焼きを二個入れたまえ。

「ニートになんかなんないよ。…結婚は、まあ、そりゃあ?相手がいるなら、するけど…今の時代、独身だって普通だよ?そういうドラマだってやってたじゃん。」

 たしか、独身○族。見合い相手のくだらん話しを山手線で乗り切るっていう…。十月からのドラマで録画してたやつを見てんだよね。ちょっとハマってんの。

 あぁ、でも半○直樹ほどにはいかないか。…倍返しだっ!なーんて。

「ちょっと…聞いてる!?」

 おっと、いかん。全然聞いてなかった。

「うん、聞いてた。そうだよねぇ、うんうん。」

 瑞樹お嬢の鋭い眼光。…これも必殺技だ。蛇の目!!(蛇に睨まれた蛙なんて言うだろう)

「そう?なら今日、八時に学校正門。分かった?」

「え…。あ、うん。」

 はい。決定しましたー。

 別に信じてないし、怖くはないけど。…ねぇ。

 だって…―――
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