君がため、花は散りける
しっかし、ほんとに古い家屋なんてあんの?
寒いし、人っ子一人いないし。
あ、でも瑞樹がすがりついてる左腕だけはあったかいや。
てか、この人こんな胸あったんだ。スレンダーの割には…っと、危ない、危ない。ここは青年誌じゃない。まず私、乙女だし、生娘だし!
そんなどうでも良い事を考えて歩く。
ふと、空を見上げると、月が見当たらない。…と不思議に思ったが、乾いた冷たい風が吹いて首をすぼめる。
かじかんだ両手にふー、ふー、息を吹きつける。
とっとと、幽霊見つけて、とっとと瑞樹を脅かして(絶交される?…いやお嬢は忘れっぽいから)とっとと家へ帰ろう。
そういや、今日のグラタン占い、すぐ家に帰って寝ろだったか?
いや、その時点で運気アップしても仕方ないだろっ!…遅めのツッコミを一人で決めていたら、また強い風が吹いた。
目の前を、ヒラヒラと何かが通り過ぎていった。
雪かな?と思ったけれど、それにしては大きいし、輪郭が見えた。紙?
「…違う。これ、桜?」
冬の風に吹かれて舞っていたのは、確かに見覚えのある、桜だった。
でも、何でこんな季節に?
「なんでだろう?ねぇ…瑞樹?」
「えっ?何、どうしたの?」
ずっと、俯いて歩いていた瑞樹。顔を上げて、宙を舞う桜を見ると、面白いほどに顔面蒼白に…。
いや、この状況でのんきな事言ってる場合じゃないよね。
…どう考えても、これが心霊現象ってやつ?
チッ、奴に詳しく聞いておけば良かった。
「…ねっ、ねね、ねぇ!あ…あれっ!!」