空々蝉
ものかき。彼の職業。
まだ20代半ば、それなのにもう数十もの作品を発表している彼の名は、巷(ちまた)ではそこそこ知られていて。
彼と知り合う前、綺麗な装丁に惹かれて、わたしもそのうちの一冊を手に取ってみたことがあった。
――あのときから、わたしは。
「これ、何のはなし?」
「ナニかのはなし」
色白で、端整な顔が、笑う。
彼のモノガタリ。細い指で描かれる、美しい文章で綴られる、汚れた性の不純なマジワリ。
愚かな男と狡い女。
深く深く繋がって、何度も何度も求め合って、縋り付いて、それでも。
そこに真実の愛はない。
彼は、幸せな結末を用意したりなんて、しない。