空々蝉
「それは酔ってるんだよ。彼氏に尽くす自分、染まる自分、愛される自分が、好きで好きでたまらないんだ」
彼女の一途な恋心は、ただの昏酔、泥酔、自己満足。
そんな言葉で片付けてしまう彼は、きっとひどく歪んでいる。
じゃあ、わたしは?
彼の台詞に頷いてしまうわたしは、歪んでいる?
草案を手に握りしめたまま、ふと縁側に目をやれば、薄紫色に染まった空に星が点々と瞬きはじめていた。
彼は、星を「屑」と呼ぶ。
星屑。ごみくず。宇宙に浮かぶでっかいちりかす。
蝉の鳴き声は狂った雑音(ノイズ)。雅やかで風流だなんて、気違いもいいところ。
ジーワジーワジーワ、ジー。
ほらごらん、こんなに陳腐で馬鹿馬鹿しいの。美しくなんて、ないでしょう。