Taste of Love【完】
◆痛い思い出
その日結局風香はどんなに頑張ってもいいアイデアが思いうかばず、これ以上粘っても無駄だと感じて、片付けをして家にむかった。

会社のある駅から五つほど離れた駅に風香の住むマンションがあった。

家賃のほとんどが会社から補助がでるので、駅から割と近いオートロックの一五階建のマンションだ。

暗証番号を押してロビーのロックを解除して、郵便受けを確認しチラシとダイレクトメールその間にある白い封筒を確認する。

(招待状――真奈美からだ)

それを見ながらエレベーターへと乗り込んだ。

高校時代をともに過ごした友達のおめでたい話に沈んでいた心が浮上する。

この前あったのが三年前の別の友達の結婚式。社会人になると離れている場所に住んでいる友達とはこういったイベントでもない限り会うことがほとんどない。

エレベーターを降りてカードキーで部屋のドアを開ける。誰もいない部屋に向かって形だけの「ただいま」を言うのが風香の日課だ。

すぐにバスルームに向かいお湯を張る。今日みたいな日にはきちんとお風呂に入ったほうがいい。心も体も凝り固まった頭もリラックスして、思いもよらない企画のアイデアが出てくるかもしれない。

服を着替えてメイクを落としているうちにお風呂の準備ができた。

料理雑誌を持ってバスルームへ向かう。湯船につかりながら雑誌を読むのが一番頭が冴える。

これを雅実に言うと「変です!」とばっさり言われたが、他に気にするものが何もないバスルームが風香にとってはアイデアをひねり出す最良の場所なのだ。
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