Taste of Love【完】
「雑誌のことで、お話に来ました」

「あぁ、それで? 問題を起こした俺とは手を組むなって?」

 手元にあった、グラスに入ったお酒を煽りながら大悟が言う。

そして、ブランデーの瓶を取った。その手を風香が制する。

「ちゃんと話をしてください。何をそんなに荒れてるんですか?」

 真剣な風香に、大悟もブランデーから手を離した。

「ごめん。ちょっとむしゃくしゃして」

 癖のある黒髪を掻きむしった。

「私は、あんな雑誌を鵜呑みにしてきたわけじゃありません。私の知ってる浅見さんも浅見さんの作るスイーツもあの雑誌に書かれていたようなことは一切ないですから」

 そう言いきった風香の顔を、大悟は丸い目をして見つめる。

「ははっ……、はっきり言い切るんだな」

「はい。ただ、今の状況を会社に戻って説明しないといけません。そのために私がここに来たんです」
 
ふとゴミ箱に目をやると、綺麗なチョコレートがそのまま捨てられていた。

「なんで、こんなこと!」

 急いでゴミ箱に駆け寄って、捨ててあったチョコレートを拾い上げる。

「どうせ、誰も本質を見ようとしないんだ。有名な雑誌に書いてあったから、芸能人が美味しいって言ってたから……そんなくだらないことで俺の作品が評価されるなんてまっぴらだ」

「だからって、こんなひどい……」

 捨てられたチョコレートは、形が崩れていた。大悟の生み出す繊細さが壊されたそのチョコレートは、風香にただただ悲しみを植え付けた。
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