Taste of Love【完】
車が自宅に到着しても、大悟はぐでんぐでんだった。

 仕方なく風香は、大男を支えてベッドのある部屋まで彼を運び、冷蔵庫の中のミネラルウォーターをコップに注いで手渡した。

 ベッドに腰かけている大悟がそれを受け取った。

「もう、いい大人なんですから、こんなになるまでお酒を飲まないでください」

 腕を組んで諭すように言う。

「面目ない……」

 大悟はそう言うとグイッとミネラルウォーターを煽った。

「じゃあ、もう遅いですから私帰りますね」

 時計を確認したらすでに二十二時をまわっていた。

 歩き出そうとする風香の手を、大悟が掴む。

「浅見さん?」

「昔、盗作の話があったのは本当」

 顔を伏せたままで、力なく話をしている。

「フランスで俺は製菓学校に通いながら、学校の推薦で有名な店の手伝いもしていた。ある日課題で作ったケーキが盗作だって言われたんだ」

「そんな……どうして」

 冷たい彼の指先がその時の悔しさを物語っているようで、辛い。

「バイト先の店に同じケーキが並んでた。間違いなく俺の作品なのに。力のない俺は引き下がるしかなかったんだ。バイト先はもちろんクビ。課題は失格。だた恩師だけは俺を最後まで信じてくれた。だから今の俺があるんだ」

 ケーキ作りに関しては、なみなみならない情熱を持っている大悟が、いわれのない罪を認めることは本当に屈辱だっただろう。

 風香はそれを想像するだけで、切なさに胸を絞られるようだった。
< 136 / 167 >

この作品をシェア

pagetop