Taste of Love【完】
始発電車が動き始める時間、風香は大悟の腕の中から抜け出し、床に投げ捨てられていた洋服を身に着けはじめた。

 大悟も目覚めてこちらを見ている。その視線を感じるが何も言わない。

 部屋には風香が着替えている衣擦れの音だけがしていた。

 着替え終わった風香は、意を消して大悟に振り向く。

「帰ります」

 その言葉に大悟が、体を起こし床においてあったトレーナーを身に着けた。

「いいです。電車動いてますから自分で帰れます」

「でも、お前」

「本当にいいんです。別に責任とってなんていいません。私は私の意志で浅見さんに抱かれたんです。だから気にしないでください」

 風香の正直な気持ちだった。大悟に抱かれてもいいと思ったのは事実だ。

ただ、恥ずかしさからどういう顔をすればいいのかわからない。

 それを聞いた大悟の目が一瞬見開き、そのあと暗い色を帯びた。

「ブー子の言いたいことはわかった。悪かった。なんか気遣わせて」

「……あの」

 どこか投げやりな大悟の態度に違和感を覚える。

「このことは誰にも言わない。俺も忘れる」

“忘れる”それは、昨日の風香との時間をなかったことにするという意味だ。

 自分の意志だと風香ははっきりと口にしたのに。

それなのに大悟から告げられる言葉はまるで、風香を突き放すような言い方だ。

その言葉に胸がえぐられるような衝撃を受けた。
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