Taste of Love【完】
「浅見さんっ!」

 思わず叫んで、近づく。

 大悟はそんな様子の風香をみて、一瞬驚いたように目を見開きその後、無理矢理ほほ笑んだ。

 風香には間違いなくそう見えたのだ。

「お前こんなところで何やってるんだ?」

「何って……色々と心配で」

「あぁ、とりあえずバレンタインの企画はそのままだ」

 風香の恐れていた展開とは違って、思わず喜びを顔に表す。

「よかった。心配してたんです」

「でも、バレンタインまでだ」

 大悟が告げた言葉に、さっきまでの喜びが陰に隠れる。

「一体どういうことですか?」

 思わず前にでて、大悟に詰め寄る。

「俺みたいにスキャンダルを起こす相手とは仕事がしにくい。それだけだろう」

「そんな、だって前回大成功だったのに……」

 ここで大悟相手にそんなことを言っても仕方のないことだと分かっている。

 それでも言わずにはいられなかったのだ。

「まぁ、俺もそろそろ店に集中したかったし。ちょうどよかったんだよ」

「そんな……」

 大悟から突き付けられた言葉は風香にとって最終通告のようなものだ。

(もっと一緒に仕事したかったのに)

 風香は大悟の瞳を見つめているうちに、なぜだか泣きそうになる。

(どうして、こんなに胸が痛いんだろう)

締め付けられるような胸の痛みに、思わず胸のあたりに握りこぶしを当てた。

「まぁ、あと少しよろしくな!」

大悟は無理矢理作った笑顔を浮かべて風香の肩をポンっと叩くと、エレベーターへと向かって歩きだした。
 
風香は何もできずに、胸の痛みと戦いながらその場に立ち尽くすことしかできなかった。
< 144 / 167 >

この作品をシェア

pagetop