Taste of Love【完】
会社を出る時に、スマホが鳴る。

「翔太?」

今日は一日会議でほとんど顔をあわせていなかった。

(何かトラブル?)

 風香は急いで通話ボタンを押した。

「もしもし」

『あ、俺だけど。今ちょっと時間いい?』

「はい。大丈夫です。トラブルですか?」

『いいや、違う。俺がニューヨークに行く日が決まった』

「え?」

『いったん引き継ぎのために二月十四日にあっちへ行く』

「そんなに早く」

『あぁ。だからその日までにお前の答えを聞かせてくれ。あせらせて悪い急にユーヨークだなんて決断できないか
もしれない。でも』

 翔太が言葉を区切る。

『でも、ついて来てくれるならお前を一生幸せにする。それだけは約束する』

「翔太……私」

『返事待ってるから』

 風香の言葉をさえぎって、翔太は電話を切った。

“通話終了”の文字が表示されるディスプレイを風香はじっと見つめた。

「ハァ……」

自分の気持ちは翔太ではなく大悟にある。

ハッキリとその事実を伝えるべきなのに、言えなかったことで後ろめたさが胸に渦巻く。

(翔太にもはっきり伝えないと。私が好きなのは浅見さんだって)

風香は駅に着き、大悟のもとに足をすすめた。

肌に突き刺さるような冷気をうけて、肩をすくめる。

(今日ちゃんと浅見さんに気持ちを伝えよう)

マフラーに顔をうずめながら、心を決めたのだった。
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