Taste of Love【完】
「なに?嫌なの?じゃあお姫様抱っこしようか?」

しゃがんだまま顔だけを風香に向けて話す。

「それのほうが無理」

「だったら、ほれ」

そういって、自分の後ろに回した手を催促するように揺すった。

風香はもう覚悟をきめて、翔太の背中へと身を預けた。

支えられる太ももに触れる手を意識しすぎて、頭はぐつぐつと沸騰したような感じだ。

(一刻も早く保健室に到着して)

風香の祈りが通じたのか幸い近い場所に保健室があった。

翔太が扉をあけて中に入り「先生―!」と声をかけるが返事がなかった。

「いねーのかよ」

ぽそりと翔太が呟くのを聞いてこれ以上お世話になるわけにはいかないと風香は思う。

「あの、ここまで連れて来てくれてありがとう。あとは大丈夫だから」

そう伝えた風香の足首を翔太は見つめていた。

「左足?」

「あ、うん。そうだけど……?」

「脱いで」

「脱ぐ!?ここで?」

翔太の発言に風香は驚いて目を見開いた。

「そうだ。早く冷やさないと痛み取れないぞ」

そう言うと、バケツに水を張ってきてそこに足をつけるように言われた。

「そ、そういうことね」

風香は自分の早とちりが恥ずかしくなり耳まで赤く染めていた。

「なに?なんか別のこと考えてた?案外エロいのな」

そう言いながローファーと靴下を脱いだ足を水につけてくれた。

「エロくない!」

本来ならばお礼を言うはずの風香の口からは、それとは反対の突っ込みの言葉が発せられた。
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