Taste of Love【完】
***

その日から風香と翔太の距離は緩やかに縮まった。

朝の下駄箱で、放課後翔太の部活のグラウンドで、昼休みに。お菓子を介して二人で持つ時間は回を重ねるごとに時間も長くなっていった。

風香は周りの友達から事あるごとに“翔太との関係”について聞かれていたが、お菓子を渡しているという事実しか話すことができなかった。それ以上でもそれ以下でもないからだ。

お菓子を渡し、感想をもらう。その延長上に一緒に図書館に通ったり、たまには映画を見たり。

風香もこれがどういう関係なのか、はたから見ればどう言う風にみえるのかは分かっていたつもりだ。

だけど二人の間には確かなものなど何もなかった。それでもいいと思っていた、高校二年のバレンタインデーまでは。

それは新しい年を迎えてすぐ父親から告げられた転勤の話だった。

風香はそれが今までの転校と変わりのないはずのものだと思おうとしたが、どうしても翔太の顔が思い浮かんで素直にその事実を受け入れられない。

当時大学生だった姉は一人暮らしをするといい、大学からほど近いアパートを見つけていた。

風香は自分も姉とともにこちらに残りたいと両親に言ってみたがまだ高校生ということで認めてもらえなかった。

「大学はこっちを受験しなさい。一緒に住むって言えばすぐにOKしてもらえるから」

姉のその説得であと一年ほどの高校生活を新しい土地で過ごすことを決めた。

新幹線で一時間ほどのその距離は高校生の風香には果てしなく長い距離に感じた。いくらこちらに一年後戻ってくるとしてもその時間が風香と翔太にどれほどの影響を与えるのか分かるはずもなく、そのことがより風香を不安にさせていた。

(気持ちだけでも伝えて行こう。そうすれば……)

翔太も待っていてくれるかもしれない。風香は小さな勇気を振り絞って、心をこめて初めて好きな人にバレンタインのチョコを準備した。

寝る前のベッドの中でレシピを確認して、シミレーションをしながら眠りについた。

思いが伝わるようにと願いを込めたブラウニーを最初に渡したクッキーと同じラッピングにくるんだ。
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