Taste of Love【完】
「――お前からの義理チョコなんていらない」

(い、いらない?受け取ってももらえないなんて。他の女の子のはいいのに、私のはダメなの?)

その言葉に一瞬にして血の気が引く。

そして冷えていく全身と反比例するような、瞼に溜まりつつある涙の熱さを感じて、ここで泣いてはいけないと風香は我慢した。

「そ、っか。ごめんね。なんか……」

(これ以上は話せない)

そう思って、踵を返して走りだした。後ろで翔太が自分を呼ぶ声を聞いたが、止まらずに走る。

(ばっかみたい!一人でまいあがって……バカだ!)

走りながら溢れてきた涙をぬぐう。制服のブレザーの袖が、涙でぐちゃぐちゃになっていく。

どうにかたどり着いた自宅のベッドへダイブして嗚咽をあげて泣いた。

自分の初めて心をこめて作ったバレンタインチョコは相手の手に渡ることさえなかった。そして自分の思いも、胸の中から外に出してあげることができなかった。

しばらくそうしていると、携帯が震えているのに気がつく。しばらく震えた後留守電に切り替わった。

着信履歴を見ると相手は翔太からだった。内容を確認する。

「ちょっと俺の話聞いてほしい。なんか誤解してるだろ?」

そう吹きこまれていたメッセージ。

(誤解もなにも、チョコを受け取らなかったのに今さら何言ってるの?)

そう思いながら、翔太のために作ったブラウニーのラッピングをとって次々口に放り込む。


このブラウニーを消化するように、翔太への思いを消化できればいい。

だけどそんなにうまくいくはずもなく、風香は三十分後トイレでそのすべてを吐き出していた。

翌日風香は高熱を出した。検査をするとインフルエンザ。

一週間自宅で安静にしいた。そのまま一度も登校することなく転校することになったのだ。

―――そして風香はあの日から、お菓子を一切口にしなくなった。

失恋の痛みは和らいでいったが、お菓子を食べてもおいしく感じなくなってしまった。

それはまるで人間になることを選んで、声が出せなくなってしまった人魚姫のように。
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