Taste of Love【完】
風香にとって翔太との仕事は正直言ってやりずらい。

風香の翔太に対する距離感がまだ高校時代のままなのに、上司として接することにどこか違和感があるのだ。それは今の“大人の”翔太を知らないのが原因だが、目の前に急に初恋の相手が大人になって現れ、すぐにそれに慣れるほど風香は器用ではなかった。

お昼の時間になり雅実にランチに誘われたが、企画書の直しにやっと方向性が見えて来たところだったので、そのまま仕事を続行した。

ほぼ完成して、もう一杯コーヒーを飲もうと席を立とうとして時間を確認すると二十時半。雅実が退社して二時間以上も経っていた。

室内には、翔太と風香の二人だけだった。

すると手に持っていたマグカップが背後から奪われた。

「飲みすぎだ。今日はもうやめておけよ」

振り返るとそこには翔太が立っていた。

「そうですね。後少しなんでさっさと仕上げて帰ります」

座って再開しようとした風香に「プリントアウトして見せて」と翔太が指示を出す。

「まだ未完成なんですが」

「これ以上やっても効率が悪いだけだ。どれぐらいできているか見せてみろ」

企画書を渡すと難しい顔して何かをかきこんでいる。しばらくそれを繰り返して「ほれ」と突き返された。

「気になるところだけチェックした。ずいぶん良くなってる。明日の午後のミーティングで使うからそれまでに俺にOKもらえるように直して」

「え?ミーティングって……」

「お前のこの案がこの企画室で立ち上げる最初の企画になる」

口角をキューっとあげて笑いかけられた。それはどこか高校生の時の翔太と重なるところがあって、思わず胸がドキンとする。
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