Taste of Love【完】
「間接キス」

そう言って大悟は青ざめた風香の顔を覗き込んできた。

「な、何言ってるんですか?」

そう言い返して自分が大悟の指をなめてしまった事実に今さら気がついた。

「あははは。それぐらいで何顔真っ赤になってんの?青い顔してたから心配したけど大丈夫そうだね」

そう言われて風香は自分の耳が赤くなっていることに気が付きあわててばれないように隠した。

しかしその行動が大悟には可笑しかったらしく、さらなる爆笑を誘ったようだ。

「今、泡だてたのがシュークリームに合うとされている生クリーム。だけどこれも生地によって変わってくるし一緒に入れるカスタードによっても大きく変化する、それを一つ一つ作っていかないといけない。人間の味覚は思っているよりも敏感だからここを少しでも間違えると結果に大きく反映される。やりがいあるだろう」

もっともだ。そしてそれを最初に風香に認識させようとするあたり、妥協は一切許さないという意志の表れだろう。

「そうですね。浅見さんとこの企画ができてよかったです」

「おい、まだ何も出来てないだろう?」

大悟は“あはは”と声にだして笑う。

商品の開発にきちんと携わってくれようとしている。それが何よりも風香には心強くうれしかった。

風香にとってこれからが一番の正念場になる。味の見極めは出来るはずだ。ただそれがおいしいと思えないだけで。

不安がないと言えばうそになる。

だが、目の前で笑っているこの男がいればこの企画は絶対成功すると風香は理由もなく確信していた。
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