Taste of Love【完】
使用した調理器具を片付けて風香はエプロンを外した。振り向くと大悟がテーブルにかけてあったジャケットを羽織っているところだった。

ふとポケットから名刺を取り出して、眺めていた。

「ゆーき ふーか ね。なんか間延びする名前だな」

のどの奥で笑いながら私に視線を向けた。

「ふーかっていうかぶー子だな」

私のつま先から頭のてっぺんまでみて、そして付けられたあだ名。

「ちょ、ちょっと失礼すぎませんか?まだ会って二回目なんですよ」

あまりの言い草に相手が大切な仕事相手だということも忘れて口をとがらせた。

「いいじゃん、ぶー子。間接キスした仲じゃん」

そう言って私の肩をがしっと抱いた。

「な、なにするんですか!?やめてください」

真っ赤な顔をして怒る風香と隣でげらげらと笑う大悟を、入口から翔太が見ていた。

「失礼します。結城電話入ってるから戻って。浅見さんは俺が」

「あ、はい。わざわざありがとうございます」

風香は大悟に軽く頭をさげると、パタパタと調理室から出て行った。

「三栖さん、今日はもう色々説明聞いたんで俺帰ります」

その場を立ち去ろうとした大悟に翔太が声をかける。

「結城あんまりからかわないでください。俺の――」

「俺の?」

「大事な部下なんで」

真剣な目で大悟を見据えながら翔太が言う。

「部下ね。でも彼女この企画の間は俺にべったりになってもらうつもりだから」

そう答えて、ひらひらと右手を振りながら、その場を後した。

一人残された翔太はテーブルに拳を打ちつけようとしたが、なんとか思いとどめた。
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