Taste of Love【完】
「――お疲れ~」

大悟は気の抜けた声で店内の従業員に声をかけて、風香の背中をそっと押して店の外にでた。

「あの、これからどこに行くんですか?」

「ん~俺もう今日くたくただからさ」

「はい」

「俺んち」

「は……いぃい?」

風香は試作品を持ってきただけなのだ。なのにどうして大悟の自宅に行かなくてはならないのだ。

「あの、お疲れのところ押しかけて申し訳ありませんでした。あの、これの感想明日でもいいので持って帰ってください。さようなら」

早口で要件を伝えると、そそくさとその場を離れようとした風香だったが、大悟はそんなことを許すわけもなく、まさに風香の“首根っこ”を摑まえた。

「はぁ? おまえ何言ってんの? 俺、疲れてるんだから飯ぐらい作れ」

「飯ですか?」

「そう、昼も忙しくて食ってないんだよ。さあ行くぞ」

そしてそのまま引きずられるようにして、車に乗せられた。

風香は大悟の車、ランドクルーザーに乗せられると抗議をしてみたが、大悟は一切耳を傾けることなく、流れてくる音楽と運転に集中しているようだった。

(そうだ。この人は人の意見なんて聞かない人だった)

風香はあきらめて、大悟と同じように流れてくる音楽を聴きながら、夏の始まりの夜の景色を眺めていた。
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