Taste of Love【完】
“チュ”

唇が触れた。

目は大きく見開き、驚きで声がでない、

(キ、キスしたー!!)

「報酬。ごちそうさま」

ニカっと無邪気にほほ笑む大悟。

そこにふたりのものではない声が割って入った。

「浅見さんっ!」

扉をバンっとたたいて、翔太が現れた。

しかし驚きで身じろぎひとつしない風香の耳には、翔太の声も届かない。

風香は何も言わずに急に立つと、大悟の前に立った。

そして右腕を思いっきり振り上げて、大悟の頬を音をたてて叩いた。

「ほ、報酬なら会社からもらってください!!」

そして扉へ向かって走りだそうとしたときに、初めて翔太の存在に気が付いた。

(見られたっ?)

別に自分が悪いことをしたわけではない。風香にしてみれば事故のようなものだ。

けれど、それを翔太に見られ気まずいことに変わりはない。

「おい、風香大丈夫か?」

声をかけられたが「失礼します」と声をかけて唇を抑えながら廊下へと飛び出した。

(……っもう最低!)

パティシエとしての腕は間違いない。

けれど仕事以外の大悟は、意地悪だったかと思えば急に親身になってくれたり、かと思えがキスをしてきたり。

(一体どれが彼の本性なの?)

触れた唇が想像以上にやわらかかったことを思い出してしまい、唇をこすりながら風香はロッカーへ続く廊下を
走った。
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