Taste of Love【完】
(私だけ意識してるっていうの!? あまりにも態度が普通じゃない?)
(向こうが何もなかったことにするなら、それでいい)
「……おい、聞いてる?」
大きな体を折り曲げて、風香の顔を覗き込む。
「あ、はい、聞いてますよ」
(本当は聞いてなかったけど)
「聞いてたなら、ちゃんと答えろよ。お前の失恋の相手って三栖サンか?」
「えっ?」
「何回同じこと聞けばいいんだ? だから――」
「待ってなんでそのこと……知ってるの?」
トラウマになった出来事については話したが、その相手が誰かは言っていない。
(どうしてばれちゃったの?)
大悟の目を見て風香は問いただした。
「今日三栖サンが言ってただろ? お前のシフォンケーキが食べたいって。それでピンときたわけ」
「あぁそれで――っていうか、それ誰にも言わないでください」
思わず大悟の着ているジャケットの裾をつかみ、見つめた。
「もう何年も前のことです。それに翔太は別に何も悪いわけじゃないし」
早口でまくしたてるように話す。
風香のそんな様子を、面白いものでも見るように大悟はみてニヤニヤといやな笑みを浮かべていた。
「おい、ちょっと落ち着けよ。ふーん。“ショータ”ねぇ」
「お前は誰にも話してほしくないってことだな?」
「はい。絶対誰にも」
(高校生の時の失恋を今まで引きずってるなんて誰にも知られたくない)
(しかもその相手が上司だなんて……)