Taste of Love【完】
「そっか、わかった。じゃあ俺はお前の秘密を握ったってことだな」

「え?」

「これでまた、お前は俺に逆らえなくなったな。かわいそうに」

ニヤッとシニカルな笑いを浮かべた。その笑顔に嫌な予感しかしない。
かわいそうだなんて微塵も思っていない笑顔だ。

「それって……」

「いや、いい家政婦が見つかって助かったよ。次の飯も期待してる」

(もしかして私脅されてる?)

「断れないんですよね?」

念のため確かめた。

「断ってもいいけど、その時は――」

「あーいいです、言わなくてもいいデス」

大悟の口に背伸びして手を押し付けた。

「ぐはっ。わかったわかった。まあ俺は別に話したところで何の得にもならないからいいけど」

(だったら私を脅さなくてもいいじゃないの!?)

逆らうともっと状況が悪くなりそうだ。喉まで出かかった台詞を胸に押し込んで黙る。

「うるさい飲み会だったけど、イイコト聞けたからよしとしようかな」

(ニヤニヤしてむかつく)

腹の立つ笑顔を人にらみして「ふん」とそっぽを向いた。風香のいまできるささやかな抵抗。

「じゃあ、気を付けて帰れよ」

そういうと、走ってきた方向へゆっくりと戻っていった。五歩ほど歩いたところで振り返る。

「俺あんときのキス、謝るつもりないから!」

ホームに響く大悟の声に、風香は青ざめる。

列車待ちの列に並ぶOLが、こちらを見てクスクス笑っているのが見えた。

言い切った大悟はそのまま階段を下りて行った。

(恥ずかしいの、残された私だけじゃないの! なにこの羞恥プレイ!)

風香は青くした顔を赤く変えながら、列から離れて周囲の好奇の視線から逃げた。
< 82 / 167 >

この作品をシェア

pagetop