きっと上手くいく
デブはそれだけ言って下を向き「ブラックまずい」って身体を小さく丸める。
ヤツの黒いコートにポツリポツリと雪が降りる。
大きな身体がまとう雪は一瞬で水滴に変わってしまう。
切なくて
はかなくて
ヤツも雪と一緒に溶けてしまいそうな雰囲気だ。
「千尋は、お前の事が好きだったと思うよ」
俺の言葉は
ヤツの閉ざされた心に届くだろうか
「千尋にだまされたとか、遊ばれたとか思わないで欲しい。あいつは不器用で真面目な子だから」
お前も不器用で真面目だろう
似てるのかもしれないね。
「お前と三人で過ごした時間は楽しかった。俺はお前の事を気に入ってたし」
ウザいけど
好きだったかもな。
デブの背中がピクリと動く
「こんな結果になって申し訳ないけれど、俺にとっても千尋は大切な存在で千尋は俺を選んだ」
「でも僕の子がお腹にいる」
「問題ない」
言霊。
言い切ることで自信がつく。
きっと大丈夫から
絶対大丈夫に変わってゆく。
俺の顔を見て
デブは涙をまた流す。
女の子は何度かあるけど
男をこんな感じで泣かせたのは初めてで嫌な気分
気まずさを缶コーヒーで流し込む。
うわっ罰ゲームな甘さ。
「やっぱりそっちがよかった。そっちが美味しい」
口元を歪ませデブが言う。
デブにとって
全てに文句をつけたい初雪の夜。