きっと上手くいく

「石橋さん」

「何ですか」

「散歩とか好きですか?」

「散歩ですか?」

散歩……頭にないワードが急に出てきた。

「私は散歩が趣味なんです。ウォーキングじゃなくて散歩が好きなんです。犬とか一緒じゃなくてひとりで散歩が好きなんです」

「そうですか」
しか……言えないよね。

「今度一緒に歩きませんか?」

「僕とですか?」

「ええ。海が見える公園とか、春の緑を感じる小路とかあるんです。小さなカフェもありますし」

散歩かぁ。
運動不足解消になるかもしれない。

「石橋さんと一緒に歩けたら、楽しいかなぁって思ったんです。勝手にごめんなさい。すいません変な話をして」

伊藤さんの頬が少し赤くなる。

「いえ、いいんです。散歩ですね」

もし
この状況を山岸さんが見ていたら
何て言うだろう。
『チャンスだデブ!』とか言いそうだな。
全然そんなんじゃないのにね。

ゆっくりした時間を
山岸さんや千尋ちゃん以外の人と過ごすのも
いいかもしれない。

「いいですね」
軽く返事をすると

「ありがとうございます。コース考えておきます」

伊藤さんは嬉しそうにそう言って
自分の席に戻ってしまった。

どうしたんだろう。
ひとりで散歩するのが
やっぱり寂しくなったのかな
誘ったら断らなそうな僕だから、声をかけてみたのかな。

そんな事を思っていたら
机の上でスマホが震えた。

着信 千尋ちゃんから着信。

僕は自分のスマホを奪うように取り上げ、トイレに走りながら震える指で画面をスライドさせた。

『俺。さっき産まれた。女の子。超可愛い』

電話口は千尋ちゃんじゃなくて
興奮気味の山岸さんの声だった。



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