きっと上手くいく
僕は毎日
彼女が働くお弁当屋に足を運ぶ。
特別な会話なんてない
ただ僕は彼女に会いたくて『いらっしゃいませ』『ありがとうございます』の声が聞きたくて通う。
ある日
「いつもありがとうございます。今日はエビフライをひとつサービス」彼女は急に僕に言い、僕は驚いて小さな声で「どうも」って言い、逃げるように店を出る。
そんなエビフライひとつの事で
僕の心臓はドキドキしていた。
前のようにギュッとつかまれたような痛みじゃなくて、甘くて切ないドキドキだった。
その子はお店の娘さんじゃなくて、ただの従業員だった。
千尋ちゃんって言うらしい。
千尋ちゃん
可愛い名前だ。
小柄で色白で元気な彼女にピッタリだ。
僕はそれで満足していた
胸の中で『千尋ちゃん』って声をかけるだけで、満足していた。
友達にもなれないし
彼氏になんて問題外だ。
あんなに可愛い女の子だ、恋人だっているだろう。
仕事で婚姻届を受理しても『早く別れろ』って思わなくなった。
千尋ちゃんのおかげだった。
リア充。
オタク式に言えばそれだった。
ただ見ているだけの存在だったのに
ある日
彼女が店の外で泣いている姿を役所の帰りに発見し、僕は声をかけてしまった。
声をかけてから
失敗したと狼狽する。
こんな僕が声をかけたら
女の子は不気味に思い余計不安になるだろう。
でも千尋ちゃんは違ってた
「いつものお兄さん」って小さく笑ってから、僕の顔を見てまた泣いて……色んな話を聞かせてくれた。