きっと上手くいく
今日は千尋ちゃんがお休みの日なので
僕はひとり
彼女のアパートに足を入れると
千尋ちゃんは「お仕事お疲れさま」って笑顔を見せて
僕を迎えてくれた。
小柄な千尋ちゃん
ふっくらお腹と可愛い笑顔
エプロン姿も似合ってて
僕は新婚さん気分になり
玄関で幸せ感じてしまう
けど
「早いじゃんかデブ」
山岸さんのクールな声が僕を現実に戻してしまう。
「いつものようにまっすぐ来ましたから」
「みりん買ってきたか?」
「はい」
僕は慌ててコンビニの袋をそのまま山岸さんに渡すと
「これ料理酒!」
思いきり怒られてしまった。
「すいません。売ってないから……あの、コンビニの店員さんに聞いたら……これでも大丈夫って……」
「ぜんっぜん違う!」
山岸さんは眉間にシワを寄せ僕を見て
財布を手にして靴を履く。
「あの……僕が買いに……」
「却下」
「すいません」
素直に頭を下げると
「……ネクタイ似合ってんじゃん」ってさりげなく言い、部屋を出て行ってしまった。
紺地に細かいドッドが不定期に並ぶネクタイ。
山岸さんからもらったネクタイ。
『デブダサっ。いつもどこで服買ってる?』って先週聞かれて、紳士服量販店でしか買った事ないから正直に言うと、すんごく呆れた顔をして僕にネクタイを何本かくれた。
イタリア製の老舗ブランドで、使いやすく合わせやすい。
『ついでに髪はどこでカットしてる?』って聞かれ、子供の頃から近所の床屋と答えると、本気で嫌な顔をして自分の行きつけの美容室を紹介してくれた。
なんだかんだで
優しい人だと僕は思う。