きっと上手くいく
時計の針が10時になって
僕は千尋ちゃんに別れを告げ
山岸さんと部屋を出る。
「駅まで寒いから」
千尋ちゃんが僕に薄いマフラーをグルグルかけて笑い、僕も笑顔を返すと
「ダンボール開けろよ」
山岸さんがボソリと言い
千尋ちゃんは頬をふくらませ返事に詰まる。
ダンボール?
ふと部屋をチラ見すると
小さなチェストの前にダンボールが見えた。
「手伝おうか?」
そう千尋ちゃんに聞いたけど返事はなく
山岸さんは「行くぞデブ」って僕の上着を無理やり引っ張り、ドアを閉める。
あ……。
遮断されてしまった。
山岸さんは深いため息を一度して
ジャケットの襟を立てながら僕に顔を向ける
無機質な街灯の下で見る山岸さんの顔は、妙に色気があった。
「千尋の実家から、たまに送ってくるんだ」
僕らは並んで歩き始める。
「あのダンボールも?」
「そう。でも開くまで時間がかかる。たまに野菜が腐る時もある」
千尋ちゃんらしくない話。
「あいつ、自分の親と上手くいってないから」
さりげなく教えてくれるけど
何も知らない自分が
千尋ちゃんとの歴史が浅い自分が
惨めで悲しくなってしまう。