きっと上手くいく




「たっ、たまに寄り道しようか?」

しまった……噛んだ。

普通の人にとっては
ごくごく普通の一言だけど
僕にとっては
冷や汗タラタラの一言。

シュミレーションを頑張りすぎて、無意識に職場でブツブツとひとり練習し
周りの人に不気味がられてしまった。

そんな僕とは逆に
千尋ちゃんは「いいよ」と軽く返事をし、丸い目をして僕の顔を見上げる。

可愛い。

僕だけの彼女なら最高なんだけど。

「山岸さんに怒られるかな」

「たまにいいよ。LINE入れとく」

「おっ、美味しそうな紅茶のお店を見つけたんだ」

また……噛んだ……悲しい。

「あ、知ってる。郵便局の近くのお店だよね。一度行きたかったんだ」

僕の緊張を1ミリも感じず
彼女はお店に向かって軽やかに歩き出す。
妊婦とは思えないように身が軽い。

『ふたりを困らせたかったの。妊娠なんてウソだよーん』
って言っても不思議じゃない動き。

でも妊娠は事実。

彼女のお腹には
間違いなく新しい生命が宿ってる

僕か……山岸さんの子が宿ってる。

宿るって言葉
自分には一生縁がない言葉だと思ってた。

人生
何があるかわからないって
しみじみ感じる。







< 57 / 127 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop