きっと上手くいく

小さな可愛らしいお店は
シフォンケーキも有名らしく
千尋ちゃんは目を輝かせ
迷いもなくケーキセットを注文する。

「健ちゃんも食べよう」

「山岸さんが、ご飯作って待ってるよ」

「ご飯も食べるから大丈夫」

「山岸さんに怒られる」

「どんだけ和也が怖いの?内緒で食べれば問題ないよ」

彼女のお菓子のような甘い吐息が
絵に描いたように僕に流れ
僕は彼女に魔法をかけられ
夕食前に
紅茶のシフォンケーキを一緒に食べていた。

「美味しいね。もうひとつイケそう」

真面目に言う千尋ちゃんをジッと見ると

「わかった。晩ご飯に響くから我慢する」

渋々そう言い
ポットから紅茶をカップに注ぐ。

お店の中は温かく
紅茶も美味しく
千尋ちゃんとのツーショットも嬉しい。

このまま
嫌な話をしないで
何事もなかったように
笑顔で家に帰れたらいいのだけれど

それでは頑張って誘った理由がムダになる。

「千尋ちゃんの家の話を聞いてもいい?」

紅茶のカップを小さなスプーンでグルグル回しながら、僕は早口でそう言った。

千尋ちゃんは自分の家の話はしない。

妊娠の話はしてるのだろうか。

してるよね。
だってもう春には産まれるんだし
急に産まれましたじゃ……家族も驚く。

お腹の子の父親の話はどうだろう

これからどうするって話はあるのだろうか。

一応
僕が父親かもしれないから
(いや絶対僕に間違いないと確信してるけど)
そこの所を聞いておきたい。






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