きっと上手くいく
「いわゆる母子家庭ってやつ。珍しくないよね」
僕は「うん」って強く返事をした。
目の前の遮断された扉が開く。
「私はお父さんが大好きだったの。もちろんお母さんも大好きだった」
お父さんとお母さんと千尋ちゃん。
近所でも有名な仲良し家族で、お父さんは千尋ちゃんと奥さんを溺愛していたそうだ。
幸せに暮らしていたけど
千尋ちゃんのお父さんは事故で
千尋ちゃんが小学校二年生の時亡くなってしまった。
幸せな生活が音を立てて崩れて行く。
お母さんはそれでも千尋ちゃんを育てるのに必死で、一生懸命働き
千尋ちゃんも大好きなお母さんを支え
生活はつつましいけど
それなりにお父さんの居ない隙間をお母さんと埋め、頑張っていたところ
お母さんに出会いがあって
千尋ちゃんに
新しいお父さんができた。
新しいお父さんはお母さんよりずっと年上だけど、優しくておとなしい人だった。
千尋ちゃんにふたりは気を使い
何事も千尋ちゃんを一番に考え
よかったね……で、終わるはずが……。
「死んじゃったお父さんがね、かわいそうになってきたの」
苦笑いの千尋ちゃん。
自分が勝手なのはわかってる
でも
大好きなお母さんの笑顔が増えるほど
千尋ちゃんは切なくなってきたらしい。
そして
お母さんは新しいお父さんの子供を妊娠する。
千尋ちゃんの弟か妹が産まれる。
一般的におめでたい話も
年頃の千尋ちゃんにとっては
あまりめでたくなかった。
お母さんは新しいお父さんと
私と同じ家の中でセックスしてるんだ。
切なさが嫌悪になったらしい。