きっと上手くいく

悲しみって
その時きちんと理解して
ギャーギャー騒いで
大泣きして
納得するのが最高だよね。

でも
その時僕は
心の中が空洞になってしまい
涙が渇いていたのか、出て来なかった。
山岸さんに怒られたらすぐ出る涙なのに……変だね。

ここ
一番大切な事で
一番はっきりしなければいけない事で

一番

避けてた話だったから。


乾いた心の中で
満ち足りた時間がガラガラと崩れる。

山岸さんの笑顔と
千尋ちゃんの笑顔と
僕の笑顔が崩れてゆく。

どうしたんだろ
絶対僕の子供なのに
お腹の子供は絶対僕のと千尋ちゃんの子供なのに

僕の口から出るのは
自分でも信じられないくらい
事務的だった。

「僕とは気まぐれで寝た?」

女の子に対して初めて言うセリフだった。

「山岸さんと上手くいってなくて、気まぐれで寝て。彼に嫉妬させて自分に戻そうとしていた?」

千尋ちゃんは何も言わない。

「はっきり言ってほしい。
 僕より山岸さんの方が好きだって
お腹の子の父親は山岸さんだ……って」

千尋ちゃんが遠く感じる。
なんだか
役所の窓口にいるような気分になってしまう。





< 63 / 127 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop