きっと上手くいく

「お客さんが待ってるよ。No.3の座を玲君に奪われちゃうよ」

何事もなかったようにベランダの外を見て『洗濯物ありがとう』と言って、ソファの上に散らばる乾いた洗濯物に手を伸ばす千尋。

「No.2!」俺が強く言い直しても『はいはい』と軽く流す。

靴下の片方を探している姿を見ながら色々思う俺。

一緒に暮らしてもう1年半。
俺としては奇跡的な長さ。

自他共に認める顔だけ男の俺。
職も続かず
その日暮らしで
金持ちマダムのヒモ生活も経験ありの俺が千尋と出会い、千尋のアパートに転がり込んだ俺。

一緒に居て
心休まる女だった。

だから1年半も続いたのだろう
そして
これから先も
一緒に暮らす相手かもしれない。

こいつとなら
いや
千尋とお腹の中の子供と一緒に暮らす。

結婚。

さっきまで
子供がデキたって言われて
マジ焦って
結婚なんて冗談じゃないって思ってたけど

今は
千尋とそのお腹の中の子供が愛しくてたまらない。

「俺さぁ」

「なぁに?」
手を動かしながら返事する千尋。

「結婚してもいいよ」
自分の意志とは思えないような言葉だけれど
一生誰にも言わないだろうという言葉が
心の底からスッと出る。

「……和也」
ぼんやりとした彼女の声が遠く聞こえる。

「結婚してやってもいいよ。子供がデキたんだから籍ってやつを入れてもいいよ」

この女を手放したくない
あのデブに渡したくない。

「ホストもさぁ……今月で辞め……」

「最低!」

せっかく綺麗に畳んだ洗濯物の山が俺の顔を直撃した。

商売道具の顔は攻めるな!


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