恋愛心工事中。


涙を拭いて、
壱を見上げた。

壱は辛そうに、眉間に深いシワを寄せていた。



苦しいのも、
辛いのも
あたしだけじゃない。



「壱…お父さん…無事だといいね……」

壱は静かに頷く。





『帰ろ』


壱は再び自転車に跨って、あたしを後ろに乗せた。



壱の細身の体に腕を回すと、心臓は脈打って止まらない。



あたし達は再び、
夜道を走り出した。









それからあたし達は
何も話さなかった。


暖かい壱の体温と
壱の香りを
感じて

家についた。







『到着。』
「…ありがとう」


自転車から降りるのも、少しだけ躊躇った。



もうこの自転車に
乗ること
無いかもしれない…




『美羽。』


あたしの気持ちを感じてか、壱はあたしを見た。


強い瞳だった。





あたしは頷くと、
自転車を降りた。


玄関に立って、
壱を見つめた。




『じゃあな』

壱は柔らかな笑顔で
あたしに言った。



「………うん」

それしか言えない。





壱はクスリと笑うと
あたしに背を向けた



< 324 / 440 >

この作品をシェア

pagetop