何度でも、伝える愛の言葉。

その3日後、澪は俺たちがいつも入り浸っているスタジオにやって来た。

某有名女性アーティストのバックバンドの一員としてギターを弾いている誠太の兄貴が、学生時代によく使っていたというスタジオだ。

その世界ではそこそこ名のあるギタリストになった誠太の兄貴が、俺たちの為にこのスタジオを買い取ってくれたのだ。

貧乏学生バンドには恵まれすぎてる環境に、感謝しても感謝しきれない。


いつもと変わらず楽器を出し、各自準備をして音を鳴らしながら澪を待つ。

もうそろそろ、着く頃だろう。



『あ、日々野さん!』


誠太の声に振り向くと、ドアを少し開けて遠慮がちにこちらを見ている澪がいた。



『こんにちは。』

「こんにちは。入りなよ、うるさいけど。」


そっとドアを閉めて中に入った澪は、不思議そうに辺りを見回した。



「あぁ、樹季ならもうすぐ来ると思うよ。コンビニ行っただけだから。」


俺の言葉に澪が安心したように頷く。

最初に樹季を探したことも、その反応も、俺を少し複雑な気持ちにさせた。



『お、日々野さんもう来てたんだ。』

『あ、こんにちは。』


そこに樹季が帰って来た。



『ほれ、ジュース。』

『え?良いんですか?』

『え、逆に悪いんですか?』

『…ふふっ。』


俺たちの視線が、澪に集まった。

今、笑った。

初めて見た澪の笑顔には「この笑顔が見たい」「この笑顔を守りたい」と、一瞬で思わせるような、そんな儚さがあった。



『ありがとうございます。』


俺たちが驚いて見ていることには気付いていない様子の澪が、樹季にお礼を言う。



『おう。ジュースくらいいつでも買ってやるから、いつもそうやって笑ってろよ。』

『え…?』


樹季は当たり前のようにサラッと言って、当たり前のように澪の頭をポンっとたたいた。


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