何度でも、伝える愛の言葉。
そんな2人を見て、どことなく胸がザワつくのを感じた。
出会って間もないのは樹季も同じだ。
何かあるわけじゃない…。
そう言い聞かせ、だけど2人を見ていられずに目を逸らす。
『なぁ、合わせようぜ。』
逸らした俺の視線を追うように樹季が言った。
「あぁ。」
『俺も叩きたくてウズウズしてたんだよな!』
合わせようと言われれば、皆当たり前のように楽器をセットする。
そんな俺たちを見て、澪はどこか嬉しそうだ。
『でもやっぱ、早坂先生の推薦だけあるわ。』
そんな澪の顔が、悟の言葉を聞いた瞬間凍りついた。
いや、悟の言葉ではない。
正しくは“早坂先生”というフレーズだ。
『サポートのキーボード探してるって早坂先生に言ったらさ、ピアノなら澪しか居ないって即答したんだぜ。』
『へ、へぇ…そうだったんですか。』
『良いよなー早坂先生にそこまで認めてもらってて。』
澪は曖昧に笑って視線を漂わせる。
明らかに動揺していた。
「悟、さっさとチューニングしろよ。」
『はいはーい。』
そんな澪を見ていられずに、悟の言葉を遮る。
澪は少しホッとしたような顔をして、再び鍵盤に目を落とした。
その横顔が、初めて会った日に見たものに戻っていた。
強がっているけれど儚い、あの…。
『澪、緊張すんなって言ってんだろ。』
そんな澪に気付いたのか樹季が声をかける。
『してないよ!』
『いや、してるな。』
澪とそんな風に笑いながら言い合える樹季に、また焦りを感じている自分に戸惑った。
俺はただ、悟にトゲのある言い方しかできなかった。
澪があんな風に微笑みを向けるのは、今はまだ樹季だけだ。