何度でも、伝える愛の言葉。

『遅刻だな。』


しばらくの沈黙の後、悟くんが呟く。



「ごめん、早く行こうね。」


自分勝手だと分かっていながらも、何事もなかったように歩き出す。



『明日、頑張ろうな。』

「うん。頑張ろう。」


デビューが懸かったライブ。


デビューすることは、本当に大変だと身をもって知る毎日。

それを乗り越えた先にある夢。


どこからともなく吹いてくる風とともに、そのとき皆と一緒に居る自分を想像できないことに気付く。


何かあったのかと心配してくれた樹季くん。

俺たちとデビューする気失くしたのかと思ったと言った樹季くん。

そんなことないと言った私に心底安心したように笑ってくれた樹季くん。


そんな樹季くんに、私は思い出していたと言ってしまった。


やっと掴んだデビューという夢を、メンバーの裏切りによって失ってしまった先生のことを。

自分がデビューに近付いたからこそ、そのつらさをようやく理解した。


私は樹季くんを好きでいて良いの…?

こんな気持ちを抱えながら、一緒にデビューしても良いの…?


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