何度でも、伝える愛の言葉。

不意に蘇る、あの頃の記憶。


あんたのピアノなんか誰も聴きたくない。


私がピアノを弾くことで不快な気持ちになる人が居る。

私がバンドに入ったりしなければ、ここでピアノを弾いたりしなければ、メンバーは4人で楽しくバンドを続けられたかもしれない。

こんなところで躓かず、結果を出して、自分たちの力でデビューを勝ち取っていたかもしれない。


やっぱり、私なんかがピアノを弾いたりするから…。



『澪ちゃん?』


気が付くと目から涙がポロポロと流れ落ちていた。

誠ちゃんが心配そうに聞いてくれるけれど、答えることができない。


思い出したくもない、あの日々。


自分で自分のことが情けなくなるくらい、先生に会いたかった。

もう1度“良基さん”と呼びたかった。

この気持ちを分かってくれるのは、あのとき孤独を分け合った先生だけだ。


この“会いたい”という気持ちは、“好き”ということなのだろうか。


樹季くんが居ながら、先生に会いたいと思う。


だけど私は今、どうしようもなくひとりだった。


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