何度でも、伝える愛の言葉。
『じゃあね。気を付けて帰りなよ。』
「待って。」
立ち上がった誠ちゃんを反射的に呼び止めていた。
呼び止めたものの何をどう伝えれば良いのか分からずに混乱してしまい、咄嗟に出たのは迷いのない気持ちだった。
「私が辞める。」
『え?』
「私がバンドを辞める。」
誠ちゃんは言葉を失いただただ戸惑っていた。
誠ちゃんはさっきの私たちの会話を、悟くんの言葉を聞いていない。
だから私がバンドを辞めると言ったことも、そこに至るまでの経緯を知らない為にかなり唐突に聞こえたのだろう。
「だから、だから誠ちゃんが辞めるなんて言わないで。」
『なんで澪ちゃんの代わりに俺が続けることになるんだよ。澪ちゃんが辞める必要なんてないだろ?』
誠ちゃんは、私がバンドに居ることを認めてくれていた。
辞める必要はないと思ってくれている。
そのことが分かっただけで充分だ。
この誠ちゃんの素直な優しさが報われてほしいと、心から思った。